アーティスト菊池宏子ブログ

 

あけましておめでとうございます。

今回はArtsyというウェブマガジンで、アメリカを拠点にする「Upstart Co-Lab」について取り上げた「Upstart Co-Lab Wants Businesses to Hire More Artists」の記事を紹介しつつ、アーティストの働き方について考えたいと思います。
なぜこの記事に、私が興味を持ったかを簡単に記すと、アート業界という閉塞的な市場への限界、そして私もアーティストとして、常にアーティストという能力や働き方、働き先について考えてきたことにあります。

FRAME00のアーティスト・イン・レジデンス(AIR)として関わり早3ヶ月が経ちましたが、改めてAIRについて、またこのような形でアーティストが関わる仕組み、基盤、フレームなど、色々と調べてみると、日本国内で、外資系企業を除くと、そもそも企業内AIRという試みを行っているのは本当にまれ。

まだまだ、一般的にはアーティストは特別視され、アーティストとしての肩書きで実践的な働き手としての雇用先もあまりないかもしれない。また、それ以前にアーティストたちが社会に通用する技術や能力を持っていると認識している人は、もしかするとあまり多くないのかもしれません。クリエイティブな力や発想が世の中では求められているという一方で、クリエイティブということを商いにする「アーティスト」の認知度はどうだろうか?

そこで、アーティスト、そして彼らの能力をサポートする人々がタッグを組みながら新たなアーティストの活動基盤、そして結果的にクリエイティブということが本質的に社会の中に必要とされる試みを実行するUpstart Co-Labの活動指針にとても共感できたことにあります。

さて、まずUpstart Co-Labを簡単に説明すると、アーティストをイノベーター(Artist as Innovator)と位置づけ、アーティストが持つ思考や実践的な能力をビジネスセクターで生かすための雇用のアドボカシー活動と、具体的に「インパクト投資」のフレームの中で、アーティストがイノベーターとしての働き・活動ができる基盤づくりを推進する団体です。

「Upstart Co-Lab Wants Businesses to Hire More Artists」の記事の中で、3つの統計結果と照らし合わせながら、当団体の設立者の一人であるローラ・カラナン氏が、アーティストという役割の必要性について言及してます。その3点を要約しつつ、まとめると:

  • 「2008年の調査において、クリエイティブな人材を求めている85%の雇用側は、適任の人材を確保することの難しさ、また、そのうちの57%は、美大の学位や芸術専攻の経歴=クリエイティブということに反映しうる」と結果が出ており、また、最新のIBMの研究では、CEO=最高経営責任者は、「クリエイティブ(Creativity)」は、社内・ビジネスにとって、もっとも価値があるスキルである。」ということの言及。
  • 「雇用側が、より多くのクリエイティブ人材を欲している現状がある昨今。アメリカには、すでに20万人以上とも言われる現職アーティスト、そして毎年6万人という美大・芸術専攻の学歴を持つ卒業生を輩出している傍ら、それらの人材を『クリエイティブな人材』として市場が見逃している可能性」について指摘。
  • また、「アメリカにおける慈善事業は、3730億ドル市場だが、芸術文化への優遇は5%ほどしかない。一方で、インパクト投資に至っては、2016年には8.7兆ドル産業と言われるにもかかわらず、そこからアートや文化への投資は実に0%である」ことに着目。
    カラナン氏は、Upstart Co-Labを通じて、このような現状に対して、アーティストという働き手が、様々なビジネスセクターの中で、当たり前のように存在する世界を描いており、まずはアートという認識、捉え方を、いかにしてビジネス産業の中で改革し、より具体的にアートと言う思考が、社会形成の一角になりえることを願いながら活動しています。

これからの課題:限界とチャレンジ
すでに、実践している業種・業界ありますが、インタビューの中でも、一般企業・ビジネス業界において、アーティストという人材を、既存の組織構造や文化の中で、位置付けるということに限界についても触れており、その原因のひとつとして「既存する組織構造の中にアーティストという人材を組み込む価値や重要性をビジネスセクターの中で完全に理解されていないこと、また、包括しきれるところに行き着いていない」と言及しています。上にもあるような創立者レベルでのビジョンはあるが、現実に社員にまで浸透するまでには、まだまだ時間がかかるのかもしれない。

現段階では、企業側がアーティストの潜在的な能力に気づいていたとしても、それを生かす組織文化や環境がまだ整っていないということなのかと思います。同時に、アーティスト側もその実績と能力を示す必要があるといつも思っています。

私は、アメリカの美大を卒業していますが、アーティストには、人とは違った視点で課題定義や課題解決をすること、世の中で固定された考え方に対して、「クリエイティブ」な視点、また人とは違う洞察力や解決方法を見出す能力があると思っています。私の場合は、アメリカでの仕事環境などが現在の働き方に多大な影響を与えていますが、少なくとも、美大教育の中で、サバイバルスキルという観点から、アーティストの持つ力や活動範囲を抜本的に考える訓練を受けてきました。

この記事でも言及されていますが、アーティストとは言えど、様々な定義そして働き方があります。Upstart Co-labが思い描くアーティスト像は、アーティストの中でもそもそも社会の課題解決に興味関心を示すタイプで、アートの用語では、Socially Engaged Artistなどと呼ばれています。このタイプのアーティストは、素材へのこだわりや、自己表現よりも、現代社会の課題に対して、アーティストという思考や行動によって関わり、具体的な解決に結びつけることを軸にしており、このようなタイプのアーティストは、1960年代の現代アートに影響され、1980・90年以降、とても増えてきています。

すでにある!Upstart Co-labの描くアーティスト達の活動
次回のブログで、SEAについて、またアート市場の内側と外でも活動・活躍しているアーティストの事例を紹介しますが、この記事の中にも出てくるアメリカ・ヒューストン市にあるProject Row Housesの創立者リック・ロウや、シカゴ市で活躍する陶芸家シアスター・ゲイツは、どちらもコミュニティ開発、不動産など、アートを触媒にしながら、社会的課題を具体的に解決し、地域産業に貢献しています。日本でいうコミュニティデザインの仕事にも類似点が多くあると思います。ちなみにロウ氏の活動は、2014年、アメリカ個人慈善基金団体・マッカーサー財団より「天才賞」という愛称のマッカーサーフェローを受賞しています。この功績がきっかけとなり、彼のようなアーティストの活動の認知度も上がり、アーティストの働き方の領域の拡張にも多大な貢献をしています。 私もお二人にはお会いしたことがあったり、彼らの拠点にお邪魔したこともありますが、彼らの意識は、常に「社会形成」にあり、アーティストとしての資質を最大限に活かしながら活動しています。

最後に
改めて思うのは、Upstart Co-labのような市場開拓をする団体の重要性と同時に、アーティスト自身も、働くという定義の捉え方の再構築、社会への適用、また自らの能力を理解しながら、アーティストとしてのあり方改革をしていく必要があると思います。 Upstart Co-labの活動の展開を追いつつも、日本国内において、どのような活動が可能かも探求していきたいと思っています。

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