アーティストの発想で、「生きる」ことを考える。

Relight Daysにて。3/12/2018

3月は、私にとって人生の転機となった東日本大震災が起きた月。あれから7年という月日が経ちました。ここ最近は、岩手県遠野市に視察や、震災を経て生きる一人ひとりの心に問いと気付きを生むシンボルとして、六本木にあるパブリックアート『Counter Void』を3月11日〜13日の3日間限定で再点灯するRelight Daysの開催もあり、なおさら、様々な角度から死生観について考える時間を過ごしています。

そして、今回のブログを寄稿する上で、死、そして人生観を考えることを一つのテーマとしたとき、アーティスト・起業家のJae Rhim Lee(ジェ・リム・リー)の名前が一番最初に浮かんできました。

彼女に出会ったのは、2001年ニューヨークで起きたアメリカ同時多発テロ事件のころ。私もちょうどMIT LIST VISUAL ARTS CENTERというマサチューセッツ工科大学に付属する現代アートセンターの教育普及の仕事に着任し、ジェ・リムは、MIT Visual Arts Program の美大学院生として同じキャンパスにいました。彼女とは、同じアーティストとして互いの活動を応援してきた良き友人でもあり、同じアジア人ということで意気投合し、私たちアーティスト特有の発想で、社会課題に取り組むことの重要性など、当時、あつーい話を幾度も交わしたことを思い出します。懐かしいです。

そんな彼女は、「死」という誰しもがいずれ迎える現実を直視し、私たちの体と環境汚染との関係を紐づけます。なぜなら、そもそも環境汚染の要因の一つには、我々の身体もが日々の生活から体内が汚染された結果。その肉体を「埋葬」という土に返す過程を経て、環境悪化への原因になってると結論づけるのです。彼女は、アーティストとして、また社会起業家として、この負のサイクルから抜け出すために、環境を考慮した死者・死体の葬り方を探求し、ビジネス化しています。今回は、そんなジェ・リムのライフワークとなる活動について紹介したいと思います。

 

アート、デザイン、科学、文化の交差による技術革新=The Infinitely Burial Suit(無限の死装束)

ジェ・リム・リーは、韓国釜山に生まれ、アメリカ・ウェルズリー大学にて心理学を学び、その後MIT付属の美大へと進みました。身体と環境、エコシステムなどをテーマにし、表現活動としてのアート作品を数多くつくるかたわら、文化的・科学的な見地から環境問題に対して具体的な解決策に結びつく様々なアートプロジェクトを展開してきたました。

彼女は、私たちが日常生活の中で、消費している物(食品、プラスチックに含まれる成分、農薬などなど)を通じ、自らの体内が知らず知らずのうち汚染されて、結果、有害物質が体内に蓄積されているという負の環境負担のサイクルに気づきます。この事実に対し、アーティストの視点から「身体が朽ちる過程」、特にアメリカでは主流となる埋葬によって起こりうる環境問題に対して、課題解決をする方法や代替案を見つけるための研究、調査、作品づくりを始めるのです。また、TEDの中でも言及されていますが、火葬においても体内の有害物質が空気中から放出されるという意味では、抜本的に死者を葬る過程を変えていかなくてはならないという、斬新な考えのもと、アーティストとして思考を活用し、活動を続けていきました。

大学院卒業後、「マイコレメディエーション:放射性同位体混成作用の菌類基盤土壌レメディエーション」について学ぶことが更なるきっかけとなり、「私たちの『死』という考え方・捉え方、また我々自身と地球という惑星との関係性において、マッシュルーム(きのこ)が、発想の転換(カルチャルシフト)となるための象徴・ツールとなりえるのではないか?(Could Mushrooms be the symbol and tool for a cultural shift in how we think about death and our relationship to the planet?)」 という大きな「問い」を掲げ、ますます彼女の未知なる探求は進んでいきました。

 

環境負担をなくすための死者・死体の葬り方?!
「死後も自分の体が環境へ配慮し、地球を汚染しないように責任を持てるか?」— Jae Rhim Lee

とにかくまずは、2011年に彼女が登壇したTEDの映像を見ていただきたいのですが、この登壇を通じて、ジェ・リムは、アーティストという立場から、科学の力やそもそもの埋葬という文化に新たな発想を投入することで、新しい埋葬のシステム、そして地球環境の整備のあり方を提案しています。

The Infinitely Burial Suit(無限の死装束)を追求しようと思った大きなきっかけは、土の中にある環境に有害な物質を浄化する 食用キノコがあることを知ったこと。この考えを応用することで、人体の組織を食し、肉体の中にある有害物資を浄化する食用キノコを大量に養成することができるのではないかという発想から仮説を立てたのです。通称「マッシュルームスーツ」と呼ばれ、食用キノコを活用して体内の毒素を分解・浄化するスーツ(映像の中でジェイ・リム自身が着用しているキノコの胞子が編み込まれた死束)を死者が纏うことで、肉体から不純物の取り除き、最終的には遺体が堆肥となり、新たな生命(植物など)の栄養分へとなるエコシステム・埋葬方法を発案したのです。 百聞は一見にしかず!

 

環境を思う埋葬ビジネスCoeio創設:アート業界から現実の社会へ進出

2008年、ボストン科学博物館での展示会企画として開催されたファッションショーに、このマッシュルームスーツをまとい公の場へ登場。当時はまだこのアプローチへの実現性や現実味がなかったので、面白い発想から作られたアート作品という解釈の方が強くあったことを思い出します。一方で、社会課題の装置としてアートを活用するアーティストやアートプロジェクトに支援する助成団体からの後押しもあり、少しずつ彼女の仮説がアート作品とはいえども可視化され、少しずつ世の中から認知されるようになり、この突拍子も無いアイディアや思想に賛同する方々が増え続けるのです。

そして、「無限の死装束」という一見非現実的なアート作品が、この2011年のTEDへの登壇が大きなチャンスとなり、彼女のこの摩訶不思議なアート作品?研究?地球を救う未来のイノベーション?に対して注目が集まります。この活動の力になりたい、もっと知りたい人、投資したい人、具体的に協力したい人たちが徐々に増えていきました。

一方で、社会的タブーだと位置付ける人もいれば、実験的なアートとしてこの埋葬業界に参入することに対して不謹慎だという批判的な意見もあったそうです。ただ、彼女の執念、そして科学的な立証、実験を繰り返し、また着実なアドボカシー活動、そしてメディアからの注目もあり、2014年にスタンフォード大学にて「人間中心デザイン」をこのマッシュルームスーツの具体的な応用をする機会を経て、アーティストによる環境保全、社会的責任を持った葬儀屋「Coeio」の起業に至りました。

 

ネットによる情報の拡散も後押し

当然、一般常識では考えられないこのアイディアを面白い!と思った人たちは、ネットを通じて全世界へと情報を拡散し、新たな発明の原種として様々なメディアに取りあげられるようになります。結果、研究者や投資家、アーティスト、デザイナー、葬儀屋さんまで、彼女の思いに賛同し、The Decompiculture  Society(腐敗微生物培養会)というプロジェクトを全面的に応援するサポート組織も立ち上げ、今の活動の漸進となるThe Infinitely Burial Suit(無限の死装束)プロジェクトへの具体化に向けて、協力体制が少しずつ整っていきました。

 

マッシュルームスーツ第一号利用者?採用者?、デニス・ホワイト氏との出会い

courtesy of Coeio

63歳にして脳の病気に見舞われ、末期症状と診断されたデニス・ホワイト氏も、ネットを通じて彼女の活動を知ることになったその一人でした。そもそもホワイト氏も、環境に配慮した埋葬を考えていたこともあり、キノコの死装束を着用し埋葬することを、自ら志願。ジェ・リムにとって、念願の一人目の利用者(Adoptor)となるのです。

こちら「Suiting Dennis: A family story of green funeral」と題した映像(英語のみ)には、ホワイト氏の決断、この特殊な埋葬方法を選択することに対する家族の思い、葬儀を家族と共に計画するプロセスなどがまとめられ、少しずつ理解を深め、ホワイト氏の考える人生の「終わらせ方」に賛同する家族のストーリーが描かれています。

 

初めてのプロセスから学んだこと

ジェ・リムは、幾度もホワイト氏の家族の元へ訪問し、家族と時間を過ごすことで、徐々に家族からのスーツへの理解を得ることになります。当然のことながら食用キノコに食べられて埋葬されるという発想がすんなり受け入れられうはずもなく、この経験から、商品として販売するためには、利用者に寄り添いながら、彼らの不安をできる限り取り除くことで、利用者が増え、結果的には環境汚染を防ぐ触媒としてこのスーツが流通するということを学びました。

この体験から、今ではThe Infinitely Burial Suitを希望する方々に対して、心の支えとなるマニュアルを強化し、またこの「Suiting Dennis」映像を活用し、視聴会を開催するなど、新しい埋葬の方法や文化を継承するための様々な工夫を凝らしています。

 

商品化

Photo courtesy of Coeio
Photo courtesy of the forever spot by Coeio

品質向上に向けて研究を継続しつつも、現在は、このスーツをネットから購入することができます。スーツ一着15万円ほど。サイズも、S,M,Lとあり、まるで、ネットで洋服を買うような感覚で死者の身を纏うスーツを購入することができます。

購入にあたり、いくつかのステップがあり、まずは、一対一ないしは、グループで、利用上の心得など、商品の理解を深めるためのコンサルティングの時間と方法を選ぶことができます。そしてきちんとした理解のもと、商品の購入へと至るプロセスがデザインされています。

またなんと、2017年8月より、ペット用のスーツの販売も開始。こちらはすでに多くの方が購入、ホームページには多くの方々の反応が寄せられています。これからどのような商品?作品が発明されるのか、本当に楽しみでなりません。

 

最後に

今回もアーティストの働き方について、ジェイ・リムさんの活動事例を用い紹介してきましたが、前回のリックさん同様、リーダーシップを担う社会人アーティストの才能、職能、資質を考えると、彼女のケースで言えることは、すぐには理解できずとも、やはり社会で本当に必要とする、必要とされる何かを発掘する優れた洞察力かもしれません。また、非現実的な仮説を立て、研究を積み重ねながらも、具体的な課題解決の方法や戦略などを生み出す実行力を持っていることでもあります。

温暖化やゴミ問題、空気汚染など環境課題のほとんどが私たち自らの振る舞いが原因であることは否定できません。またその結果、直接的、間接的な人的被害をもたらされる中で、彼女は、食用キノコを正義化し、斬新な発想からオリジナルなエコシステムを提案、創造し、想像を絶する文化創成を導いています。

また、いい意味で自分の信念に対し、絶大たる思い込みと執着心のもと、納得が行くまで探求し続ける忍耐力と頑固さ。彼女の場合は、多岐に渡りこの課題を深く掘り下げながら時間をかけて前進し、諦めるということや妥協ということを簡単にはしない原動力があるからこそ、このような活動が生まれるのだと思います。

 

アーティスト 菊池宏子 hiroko kikuchi

アーティスト/コミュニティデザイナー/NPO法人インビジブル クリエイティブ・ディレクター/クリエィティブ・エコロジー代表